5)受診抑制の各論

医療財政が逼迫している現状では、医療機関への様々な受診抑制策が図られています。受診抑制については2つの側面から理解しなければなりません。

  1. 医療財源の面からの受診抑制や医療資源消費を抑制しようとする方向性
  2. 不適切な受診による無駄な医療財源と医療資源の消費を抑制するという方向性

の2点です。

1.の医療財政の面からの受診抑制策ついて具体的に見て見ましょう。

  •  患者負担の増額
  •  初診料、再診料の調節
  •  薬剤処方の調節 日数制限
  •  スイッチOTCの導入
  •  末期医療の抑制

などが考えられています。一方、正面から受診抑制を行政が切り出すには、国民の反発は必至です。正面から切り出されなくても、後期高齢者医療保険制度の周知が不十分で、小泉政権における最後の改革であった、医療保険制度改革に盛り込まれていた同制度の導入が施行されたと同時に高齢者の患者負担増と受診抑制の批判が吹き荒れたことは、皆さんご存知のことでしょう。

したがって、正面から受診抑制を議論することは、困難な問題です。したがって、患者の利便性や患者の意思の尊重というソフトな切り口で、実質的な受診抑制策と医療費支出の削減を目指す路線が、行政の選択肢になっています。勿論行政は、診療報酬のコントロールにより、医療費の支出をコントロールできる手段は持っていますので、個別医療行為の診療報酬や初診料、再診料の調節により医療機関の受診をある程度コントロールできます。一方、生活習慣病などの慢性疾患が多くなり、長期に通院や薬剤に内服が必要な患者も増える中で、受診回数を減らすための手段として従来2週間までの薬剤処方日数を緩和し、原則処方日数の制限を廃止しています。患者にとっては無駄な診察が減り、薬剤は処方してもらえるといった状況になっています。医療機関の経営にも関係する話ですが、現実化しています。更に、最近はスイッチOTC薬が、導入されています。例えばガスター10、ロキソニンSなどテレビコマーシャルで見たことのある薬剤でしょう。これらは医師の処方が必要であった薬剤でしたが、現在では処方箋がなくても市中の薬局で購入できるようになった薬剤です。患者は、医療機関へ受診しなくても薬剤がもらえるという利便性に加え、その分医療財政としては再診料の支出が抑制できる面があります。すなわち、受診抑制の効果があるわけです。ただし、医療機関の受診は手間でも、健康保険証を使用して薬剤を処方してもらえば3割の負担で薬剤をもらえます。最近では、生活習慣病の中心である高脂血症(コレステロールや中性脂肪が高い方)の治療薬であるエバデールが、スイッチOTC薬に変更されることが決定されており、開業医の収入源の一部が減るということで医師会が問題視しています。

2.の不適切受診の抑制の面の受診抑制策について見て見ましょう。

  • 医療機関の機能分化   
  • 療養病床の削減
  • 選定療養制度による時間外費用や初診料の弾力化
  • 総合医創設            

過去、よく言われてきたのが、風でも大学病院を受診する患者が多いことや夜泣きを心配した乳幼児の母親が、大病院の救急外来に駆けつけることでしょう。いずれも適切な受診方法とは言えません。患者に責任があるわけではなく医療制度に不備がある証拠のひとつです。社会的入院も批判されていますが、過去の医療制度の施策に問題があった結果生じている問題です。そこで、適切な医療資源の配置と利用に向けて過去数度医療制度改革が実施されました。過去の医療制度改革は目安5年に1度の医療法改正の中で具体化されてきています。最近までの施策は、無駄な病床の削減、病院の機能を整理し高次医療機関、地域の中核病院、診療所の機能分化を明確にすると共に、病病連繋、病診連繋が推進されています。地区の中核病院にいくと紹介された患者の受け入れ率による診療報酬の増減に対して診療連繋室などが設置されています。ある程度の病院は、一見の患者を診るのではなく、なるべく一次医療機関からの紹介率を上げることで医療機関の経営が安定するように制度がコントロールされていました。その結果、病院の機能分化に一定の効果がありました。病院からは紹介状がなく勝手に受診する患者よりも、紹介のある患者の受診を喜んでいたわけです。最近では、単なる紹介率による診療報酬の調節は終了するようです。

 また、紹介状の無い患者や時間外に受診される患者から通常の初診料以外に費用を徴収する医療機関が増加しています。これは、選定療養で認められた制度です。このように様々な方法で受診の適正化が図られています。

 さて現在、議論されているのは「総合医」制度の創設です。イギリスのようにゲートキーパー機能を持ったGPに類似した制度を日本でも導入しようという動向の一部です。将来的には、家族にとっての日常的な診療医(いわゆるホームドクター)を決め、必ず診察の後に必要があれば別の医療機関へ連繋してもらう制度が構想されています。しかし、現在の論議は開業医を専門化して総合医とする内容です。しばらく、どのように制度が整備されるのか注目したいと考えています。

いずれにしても、これまで受けられた医療サービスが公的保険の縮小という中で受給されなくなる状況は、拡大していくはずです。民間保険業としても適切に補完ができるように、受け皿商品を用意する準備をしておくべきでしょう。