公的健康保険制度は、財源、保険者、給付サービスの内容は国によって異なっています。入院サービス、手術などの基本的な医療行為に対しては、多くの国で給付対象となっていますが、薬剤に対する給付は国によって非常に異なっています。
まず日本における薬剤給付の位置づけを見てみましょう。日本の公的健康保険制度は、出産一時金など例外を除いて、基本的には現物給付です。すなわち、患者は医療機関を受診して現金を払って医療サービスを購入するのではなく、医療機関が適切な医療行為を現物で提供し、保険者から費用の償還を受けます。現物で給付される医療サービスは、
現物給付項目 |
内容 |
診察 |
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薬剤の給付 |
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保険医療材料の支給 |
手術縫合糸、カテーテル等 |
入院 |
看護ケア等 |
入院時の食事 |
入院時食事療養費と入院時生活療養費 |
必要な医療 |
検査、手術、リハビリ等 |
表のとおり基本的に6つの給付項目になっています。日本で保険給付の対象の薬剤は、薬価基準に収載されている薬剤になっています。また償還率は70%であり、患者自己負担は30%です。難病に対する医療サービスや生活保護者への医療扶助など公費負担医療を除くと、がんのような生死に関する疾病に対する薬剤であっても風邪のような軽症疾病に対する薬剤であっても償還率は70%であることが、日本の薬剤給付の特徴です。
さて、諸外国の公的健康保険制度における薬剤給付を次に見てみましょう。英国は、入院における薬剤は無料です。外来受診で受けた処方薬は、薬局で1薬剤あたり7.2ポンド(薬1000円)が患者負担です。日本より安価です。
フランスでは、疾病の重症度によって、薬剤費に対する公的保険からの償還率は4ランクに分かれています。抗がん剤やHIVなどの生死にかかわる疾病の治療薬は100%の償還があります。すなわち、患者の自己負担はありません。その他、償還率が65%、35%、15%の薬剤に分かれています。またビタミン剤等全額自己負担の薬剤もあるので、これを含めると5ランクの薬剤区分があり、患者の自己負担が変わります。
ドイツでは、患者は薬剤に対して10%の自己負担がありますが、負担の上限も薬剤費により決められていて実質5~10ユーロ(約600円~1200円)の自己負担に限られています。
以上で紹介した英国、フランス、ドイツは基本的に国民皆保険が実現している国です。しかし、米国においては、民間主導の健康保険制度と基本的に65歳以上の国民をカバーし連邦政府が運営するメディケアと子供のいる低所得者、医療困窮者を主にカバーし州政府が運営するメディケイドが、公的健康保険制度として存在しています。それぞれの医療サービスは複雑で、薬剤の給付についても制度により多様です。詳細を紹介するのは省略いたします。
諸外国の健康保険制度をすべて理解するのは大変ですが、英国型(日本類似型)、フランス型(民間保険が公的保険を完全補完)、ドイツ型(公的保険と民間保険の並存型)、米国型(民間主導型)が主な比較対象です。これ以外に特長がある医療保険制度としてよく取り上げられるのはシンガポール(医療貯蓄型)です。それぞれ、保険給付の範囲も異なり薬剤の給付内容も異なっています。結論から言いますと日本は、がんなどの重病に対する薬剤費の患者の自己負担が大きな国です。反面給付対象とならない免責薬剤も少ないのが特徴でしょう。今後、高額薬剤が増えるので、薬剤給付と公的健康保険を考えうる上では、諸外国の給付状況の調査比較検討が重要になるでしょう。