6)医療制度規制とTPP交渉

 日本の医療には、常に医療政策における規制改革の議論の遡上にあがる3大規制があります。これに加えて日本の公的健康保険制度において社会主義的と評されるのが診療報酬制度や薬価基準という公定価格の部分です。産業界からは、これらのすべてが日本における医療制度上の規制であると表現されます。つまり実質4大規制になります。すべてを列挙すると次のとおりです。

・医療制度の3大規制

①地域医療計画(現在地域医療ビジョンへ修正)

②株式会社の医療経営の禁止

③混合診療禁止

・健康保険制度

④診療報酬点数制度、薬価基準

 日本の社会保険制度のあり方は、あくまで日本の内政問題ですが、これと切り離して議論できる規制部分については、TPPの交渉で議論される可能性は否定できません。医療機関の設立形態や医療機関設置の基準については、議論される可能性があります。また外国企業の市場参入の視点で薬価基準のあり方については最も議論されるのではないかと推測されます。日本における薬価の算定方法は非常に複雑です。新薬の薬価算定においも先行して承認されている類似薬剤がある場合には、製薬会社の創薬原価よりも類似薬の薬価が算定に影響し、市場原理から外れます。公的健康保険で薬剤の給付をサービスに含んでいる以上、薬剤価格のコントロールは必要です。一方、公的健康保険で薬剤の給付の程度は国により様々です。最近の新薬は、体力のある巨大な製薬メーカーに寡占化が進んでします。厚生労働省の定義でメガファーマと呼ばれる世界規模の巨大な製薬メーカーが、薬価の決定に大きな影響を与えるようになってきています。日本が、厳格に薬価基準を死守するとこれらのメガファーマから日本に対する薬剤供給を調整し、TPP交渉にも影響を与えることが懸念されています。

 これからは、公的健康保険の免責議論と共に薬価基準や薬剤給付のあり方議論に注視していくべきでしょう。最近、民間生保を中心に抗がん剤治療費用保障という新しい商品が開発されつつあります。これからは、がん診療に限定せずに、すべての疾病の薬剤費用保障が必要な時代が訪れるかもしれません。