15)医療技術の評価視標QALYとは

 今後の公的健康保険の行く末を考える上で、免責議論、薬剤給付のあり方および保険収載の視標としての費用効果分析など別に解説してきました。さて、現在厚生労働省で審議されている費用対効果検証の視標として、クローズアップしているのがQALY(質調整生存年)です。学術的には医療に関して費用便益分析や費用効果分析の研究は数多くあります。しかし、現実イギリス、フランス、オーストラリアなどで導入されている視標が費用効果分析の手段であるQALYです。日本でもこの視標の導入が現在審議されています。この視標の導入には賛否があり、諸外国のなかでも導入を控えている国もあります。積極的に導入し医療政策や公的健康保険の保険収載視標に利用しているのがイギリスです。

 QALYは、簡単に言えば1年間現在のQOL(生活の質)が同じ状態に保たれれば1QALYとして評価します。質が半分になっても2年間その状態で生存されれば1QALYになります。費用効果として1QALYを得るための費用を算出するわけです。英国では新しい医療技術や新しい薬剤について保険適用の可否を判断する際にこの視標を参考にされています。治療以外の健康福祉にも利用が可能、異なる対象の比較がしやすいこと、結果が理解しやすいことなど利点があります。しかし、このようにQALYについて解説するのは簡単なことですが、実際個々の患者のQOLを測定することは容易ではありません。

 また、掛かった費用部分に生産性損失を含めるかどうかで費用効果分析の結果は大きく影響を受けます。生産性損失は、医療費とは直接関係ない病気によって仕事や家事ができなくなる費用です。新しい医療技術の評価として1QALYを得るために必要な治療費以外に早期に社会復帰できることによる生産性損失の額を考慮するかどうかで新技術の費用-効果の分析結果は全く異なることになります。実際、諸外国における保険収載の視標で生産性損失を考慮するかどうかは、様々です。

 専門的な解説は、これぐらいにしますが、現在新規薬剤の承認(一般的に承認には2種類あり、俗に言う薬事承認と保険承認になる。ここでは薬事承認を意味する。)には、承認申請の過程で費用効果分析のデータも提出するようになってきています。しかし、手術などの個別医療の保険承認には、まだ費用効果検証に関する指標は使用されていません。先進医療に申請する際も技術料を説明するための医療技術の原価を提示しているだけです。

 今後、全ての薬剤、医療技術にQALYの視標が導入されれば、保険収載の可否のみならず薬価基準や診療報酬点数にも反映される可能性もあるはずです。賛否があるなかでQALYの視標がどのように導入されていくか慎重に見守りたいと思います。

 民間保険においてもQALYが公式に公表される時代になれば、QALYを利用した新たな治療費用給付金などの検討も可能になるでしょう。ただし、現実的に越えるべきハードルは大きいようです。目先の話になりますが、次回の診療報酬改定に合わせて先進医療の粒子線治療を保険収載するかどうかを公明正大な基準で判断するために一定の検討が進むものと考えています。