13)医療費コントロールの視標の変化

 国民の総医療費の動向や医療費のコントロールは、直接民間保険のあり方に直接影響するものではありませんから、深く知っておく必要はありませんが、国はどのような手段で医療費をコントロールしているのか、国民も最低限の仕組みを理解しておくことは必要でしょう。社会保険の補完の役割を担っている民間保険業に携わる方々にとっては、更に必要性があるはずです。

 医療財政と医療基盤整備の政策誘導を反映して、総診療報酬の増減および診療報酬の重点配分分野の決定が政策決定されます。前者については閣議決定されます。政策方針と閣議決定を受けて中医協で個別医療行為の診療報酬点数が決定されてきました。厚生労働省は、社会医療診療行為別調査や医療経済実態調査のデータを基に医師会委員と厚生労働省の担当者が、数千の診療行為について2年に一度見直しています。当然厚生労働省には医系技官がいますので、医療行為の内容を考慮しながら調整していきます。また、現在は協会けんぽに移行している政府管掌保険については、保険者が国でしたから社会医療診療行為別調査や医療経済実態調査のようなサンプル調査以外に政府管掌保険については全医療行為が把握されており、そのデータを視標に診療報酬の増減、配分を決めていました。

 以上記載したとおり、総診療報酬のコントロールは結局個別診療報酬を増減することだったわけです。ところが、現在一般病床の50%以上が包括方式(DPC方式)の病床になってきているDPC方式の病院では入院患者に対して提供される複数の診療行為は、包括支払の対象です。個別診療行為の点数を増減しても総診療報酬のコントロールには、直接結びつかなくなってきています。したがって、従来の総医療費コントロールとは異なるDPC病院の診療に関する診療報酬のコントロールが、医療関係者の間で議論されてきています。

 具体的には、DPC方式における入院基本料と、個別病院ごとに診療報酬を増減する調整係数や機能係数Ⅰ、Ⅱの内容により総医療費の中で入院に関する医療費が増減することになります。調整係数は暫定的な係数でいずれ病院の人員配置や病院の提供する医療水準や診療結果を反映した機能係数で入院医療費がコントロールされることになって行きます。つまり、これまでは個別診療行為の診療点数と診療回数のコントロールから現在病院の機能評価で医療費をコントロールする大きな方向転換の最中ということになります。

 ところで、実際の診療報酬の決定や総医療費の増減については、多くのステークホルダーが関係し、その調整は複雑です。ここでは触れませんでしたが、薬剤給付の費用も国民の総医療費に大きく関係していますが、薬価の決定も非常に複雑なアルゴリズムが存在しています。国民としては万一傷病になった際に受ける医療の価格とその決定プロセスには関心がなければなりませんが、複雑さのために話題になることはほとんどない状況だと思われます。

 簡単な範囲で解説しましたが、第三分野商品の中には、患者が負担した医療費の実額を給付する実損填補型に近い商品を販売している民間保険会社もあるようです。当然、今回解説した価格決定や医療費コントロールの内容は、そのような商品の給付率にも影響しますので、少なくとも商品を管理している担当者は注視しておくべきでしょう。