当面民間保険会社が注視しなければならない医療保険動向としては、以下のポイントが考えられます。
先進医療の今後および混合診療の範囲拡大
薬剤と保険給付
費用対効果検証による保険収載視標
医療保険を中心に第三分野商品は、急性期の治療費用保障と所得補償の2つの機能を役割としてきました。特に急性期の治療費用保障=入院費用保障という単純な構図は、既に過去のものになりつつあります。勿論、医療技術の進歩がそのような構図に変化を与える面も大きいのですが背景にある医療保険制度の変化は重要です。
さて、最近行政で審議されている医療保険制度で重要なポイントは上記に列挙しましたが、その中でも特に重要なのは、費用対効果検証の視標が保険収載の基準に導入されるかもしれないという議論です。保険外のものが、全額患者負担になり、その部分の医療が混合診療として可能かどうかは、次の話です。日本の国家として何を公的な健康保険サービスとして給付するのかという課題は、重要です。年金と医療における最低保障の考え方の違いについては別に解説したいと思います。したがって、前提となる保険収載の基準の議論が正面から為され、費用対効果の検証を視標に導入することが取り上げられたのは、欧米に比較しても非常に遅かったのですが、ようやく緒に着いた印象です。
既に国では、中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会が立ち上がり、8回審議が行われています。審議の中心は欧米における費用対効果の実情と用いられている基準および基準の中心をなすQALY(質調整生存年)についての利用の是非です。具体的には、欧米の中でも最も費用対効果の検証について制度的に進んでいる英国と行政の機関であるNICEの取り組みと、QALYを具体的にどのように応用しているのかの研究分析について議論されている状況です。実際、国のレベルで保険収載の基準を導入し、国民の同意を得るためには様々な利害を調整しなくてはなりません。実際、世界的にはQALYを代替するような視標はないようです。ここでは、これ以上QALYについて説明するのは割愛させていただき別に解説したいと思います。ただし、今後民間保険業にも影響を与えるひとつの起爆剤がQALYであることは、ここに述べておきたいと思います。
いずれにしても、費用対効果の検証と保険収載への視標導入は、保険収載基準の透明化というプラス面以外に負の面もあります。患者のニーズはあるが費用対効果の面で脱落した医療行為をどのように患者が受けられるのか、そのような医療サービスへのアクセスの問題と費用負担の問題がより現実化します。自由診療なのか混合診療として吸収されるのか、先進医療の制度変更があるのかは、新たな視標導入と共に議論されなければなりません。その意味で中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会の審議内容は、当研究所としても非常に関心を持って注視しています。民間保険業に携わる方々にとっても、一般の消費者にとっても非常に重要な議論です。ぜひ、注目していただけるとよいでしょう。