上皮内がん、上皮内新生物について

 悪性新生物の治療費用を単独で保障するがん保険や脳卒中・心筋梗塞と一緒に保障する三大疾病保険などが販売されています。古くは入院特約の亜型としてがん入院特約も販売されてきました。通常、募集人は悪性新生物というよりもがんと表現することが多いのですが、がんという表現は医学的には悪性新生物と同じです。しかし、保険約款では各社がバラバラにがんを定義しています。ところで、今まで聞かれたこともなかった上皮内新生物という用語を募集人から説明を受けることがあるかもしれません。

 世界中勿論WHOも医学的には悪性新生物=がんと定義していますが、日本の民間保険会社の中にはがんに悪性新生物以外に上皮内がんあるいは上皮内新生物を含めて定義している会社があります。医学の素人である消費者に誤解を与えることになり、このような定義は慎むべきことであると当研究所は考えています。現在WHOでは上皮内がんという用語を使用しないように勧告しています。「上皮内がん」という用語には、がんという表現が入っているため患者に悪性新生物と同等の恐怖感を植え付けたり、過剰治療を招来させかねないからです。したがって、約款に上皮内がんを使用している会社は不誠実な保険会社と言えるでしょう。以後、解説では上皮内新生物について述べてみることといたします。果たして募集人の方からどのような説明を受けられているでしょうか。

 実は、悪性新生物と上皮内新生物は全く病態が異なります。上皮は、体表面の皮膚やや消化管など粘膜の最表層部分になります。上皮内に腫瘍がとどまっている場合上皮内新生物と表現されます。周囲臓器へ広がっていたり(浸潤)、遠くの臓器に転移したりしていませんので、浸潤や転移をする悪性新生物とは全く病態が異なることになるわけです。

 では、上皮内新生物と悪性新生物はどのように異なるのでしょうか。

  悪性新生物 上皮内新生物
浸潤・転移 ある ない(放置すると浸潤する可能性はある)
死亡の可能性 ある ない
治療

大きな手術

放射線・抗がん剤

良性新生物に準じた手術

 表にまとめたように、両者の性質は異なりますので、治療費用を保障する保険の意義も全く異なります。このような医学的事実を無視して悪性新生物と上皮内新生物を同等視して販売している会社は、商品名を開発される方がよく理解されていないのでなければ医学的見解を無視しているか過剰な不安を煽って商品を販売している不誠実な会社といえるでしょう。

 消費者の方に知っておいていただきたいのは、上皮内新生物では人は死亡しないということです。上皮内新生物は、悪性新生物よりもむしろ良性新生物に類似した性質であることの理解が重要です。がん保険に加入しているのに、上皮内新生物であったため給付金がもらえなかった、あるいは金額が少なかったと思われる方がいらっしゃると思いますが、悪性新生物であれば死亡するリスクがありますが、そのような心配をしなくて済んだことを素直に喜ばれるべきでしょう。