がん保険で無効と言われたら

がん保険には、契約の無効規定があります。詐欺無効などと異なり、がん保険特有の無効規定です。具体的には責任開始前に、がんの診断を受けていた場合には契約が無効になるという商品特有の無効規定です。即ち、がん保険で保障されるのは、責任開始後に生涯初めてがんの診断を受けた場合に限られています。また本人ががんの既往を知っていたかいないか関係なく無効になるという、やや特殊な規定となっています。

1)無効規定ができた背景

がん保険は、一般の保険契約と同じく加入に際して告知が必要です。当然、不実な告知、すなわち重大な過失や故意に事実を告げない場合には、告知義務違反を問われます。しかし、知らない事実には、告知義務違反を問うことはできません。がんという病気は、その性質上、診断に関する告知を受けていないことがあります。つまり患者不知という特殊な状況が、最近は少なくなってきていますが発生します。したがって、患者不知であれば告知義務違反の主張はできないわけです。

日本で、がん保険が販売されるようになった約40年前は、がんは告知されていないことが当たり前でした。そのような状況下でがん保険を販売し運営するためには、告知義務違反以外に、不知の場合であっても無効にできる規定が必要だったわけです。

2)会社により異なる規定

①「がん」の範囲

無効規定の骨核は同じですが、責任開始前の「がん」に悪性新生物(WHOの認定しているがん)以外に、上皮内新生物が含まれる会社と含まれない会社があります。したがって、責任開始前に、悪性新生物だけでなく上皮内新生物に罹っていた場合にも無効になる会社とならない会社が存在しています。

②いつの時点のがん診断か

少し専門的ですが、責任開始前にがんの診断があれば無効となりますが、悪性新生物については、その対象となる腫瘍の良悪分類の見直しが時々WHOで行われます。したがって、無効の判断をするときも保険会社は慎重でなければなりません。驚くべきことに、これまで悪性新生物であった腫瘍が、悪性新生物でなくなる、あるいは悪性新生物でなかった腫瘍が悪性新生物に分類変更されることがあります。

 

 

責任開始前の診断時

保険請求時

パターン1

悪性新生物

悪性新生物

パターン2

悪性新生物

悪性新生物対象外

パターン3

悪性新生物対象外

悪性新生物

パターン4

悪性新生物対象外

悪性新生物対象外

 

この表のようにパターン分けされるのですが、無効規定の運用は勿論パターン1,2の場合にしかありえません。しかし、消費者有利に考えればパターン1の場合にのみ無効規定の運用をすべきです。

3)最後に

結論ですが現在がんの診断の告知を受ける方がほとんどですので、このような無効規定が必要か検討すべき段階がきています。上皮内新生物の診断を受けていたという事実だけで無効規定の運用をするのは乱暴な印象です。臨床の世界でも、治癒することがわかっていて、余命に影響しない上皮内新生物について病名告知をしないことはほとんどありません。多くは、告知義務違反で不払いの対応は可能です。それ以上の対応は不要ではないでしょうか。また、表のとおりのパターンがありますので、パターン2のようなケースで無効規定の運用がなされていないか医療の専門家に見解を求めた方がよいでしょう。