東日本大震災に会われた被災者および犠牲者のご家族に対し心からお悔やみ申し上げます。
また、福島原発の災害という、震災と2重の苦しみ会われている多くの方々に対し、心から哀悼の念をお伝えさせていただくと共に、一日でも早い復興が叶うことを望んでおります。
福島の原発事故では、被曝の問題が現実になり風評被害を含め本当に多くの方々が苦しんでいらっしゃいます。生命保険に関しても放射線被曝と保険加入の問題について多くのご質問を受ける状況です。
放射線被曝に対して保険医学的にどのように考えているのか、現状と、これからの問題について説明させていただきたいと考えます。
①広島・長崎の原爆被爆者について
これまで、被爆者手帳を所持している方々からの保険加入のご相談を受けることがあります。当研究所では、特段毎年の健診で異状が無い方については、生命保険、医療保険、がん保険等について現時点で何等加入制限をする必要はないと考えています。
②がんの治療で放射線治療を受けた方について
がんの治療を受けられているので、がんの伸展、再発リスクなどによって保険加入の判断は生命保険会社各社で様々なはずです。一応完全に治癒(純粋な医学的意味では誤りですが)したと考えられる診断後10年経過して、再発等の兆候がなければ、当研究所では生命保険の加入は問題ないと考えています。
一方、今回の原発問題と異なり放射線治療では局所に放射線を大量に照射します。がんの病巣周囲の体内の組織も被曝することになります。したがって、がんが治癒したと考えられても、周囲の組織の被曝による晩期合併症である、新たながんの発生の危険性はあるわけです。ただし、その危険性は限定的で全ての保険商品の支払いに大きく影響するものではありません。
また、最近の3次元照射など高精度放射線治療の普及は、放射線治療に伴う晩期合併症の危険性を低減させると考えています。
③東日本大震災の原発事故の被爆者
放射線の複数種類の単位に関する問題、放射線量の測定方法や一定しない測定場所の問題などのために、マスコミ報道も混乱し風評被害も拡大しています。
被爆者といっても、いくつかのグループに分けて考えられます。
a)福島原発の場所で災害対策に従事して大量被曝し急性期放射線障害が発生した方
b)福島原発の場所で災害対策に従事している方々
c)福島原発の周辺住民で避難勧告を受けた方々
d)避難勧告の無い福島県内の地域に居住されている方
e)避難勧告の無い日本国内の地域に居住されている方
に分けられます。現段階で確認できる公開情報を基に当研究所では、b)-e)の方々の保険加入に一切の制限は不要と考えています。
また、a)の大量被曝をされた方の場合は、被曝の部位、被曝量、放射線の種類により個別判断になるものと考えられます。なお、現段階で数名の方が、足部にベータ線の被曝を受けた方の報道がありました。急性期の皮膚炎の症状は発症される可能性はありますが、急性期症状が軽快された後であるならば、その方々でさえ保険加入は制限する必要はないと考えています。
④福島県で小児甲状腺がん検診開始について
福島県の36万人(原発事故発生時0-18歳)を対象に2年に一度20歳になるまで甲状腺がん発見をスクリーニングするための検診が開始(2011年10月)されることが決まりました。小児甲状腺がんは、放射線被曝とは関係なく一定の割合で発症しています。万一検診で甲状腺がんが発見されても原発事故との関係は明確ではないことが多いはずですが、今後の医療費負担やこれに伴う健康被害への賠償問題がクローズアップしていくでしょう。
将来の健康被害を考えて親御さんが、お子様の医療保険やがん保険の準備をしておく気持ちになられるのも当然と考えます。
このような検診が始まっても、異常の発見されていない方は、他の健康状態に問題がない限り、医療保険やがん保険の加入について一切の制限無く加入できると考えています。
万一、異常が発見されてしまった場合は、保険会社各社の判断になることはやむを得ないと考えています。一方、保険会社はできるだけ契約機会を提供できるように努力すべきでしょう。