契約を断られた、契約に条件がついた

保険加入申込者の健康度を評価した結果、契約見合わせ(謝絶)や条件付与が行われます。

消費者にとって危険選択は不愉快なものです。自分から進んで契約を申し込んだのではなく募集人に勧められて申し込んだのに、保険会社が危険選択をするなんて、不愉快だと思われるのは当然です。これは、

①危険選択の必要性が充分理解されていないこと

②危険選択の実務や、危険の評価方法が理解されていないこと

③危険選択の結果に納得できないこと

が主な原因です。

 

別の項目で危険選択が必要な理由について紹介いたしましたが、理解できたとしても危険選択は不愉快なものです。自分を骨董品扱いし、品定めをされた結果の条件付ですから愉快なはずはありません。理解できない場合には、時に差別されたといった苦情を述べられる方もいらっしゃいます。差別と区別の差は、理由・根拠のない場合の区分が前者ですので、区分の理由・根拠への理解不足が、差別意識を醸成させることになっているわけです。当然、区分の根拠が社会通念上許されなければ論外です。

保険会社としては、納得していただけなくても、充分理解していただくように対応する姿勢が重要でしょう。

 

更に納得できないのは

④自分は健康だと思っていたのに、保険会社の危険選択の結果と異なっている

という健康度に対する認識の違いがあるからです。

さて、少し契約の条件について解説してみます。

主な条件には

  • 保険料割増条件
  • 保険金削減条件、期間限定の保険料割増条件
  • 部位不担保、疾病不担保

があります。

 

1)何故契約を断られるのでしょうか

①会社が決めた健康度の範囲を超えた(かなり健康度が悪いと判定された)

死亡保険は、通常各社で引き受けるリスク(健康度の範囲)の上限を決めています(保険料等算出方法書に健康な人の死亡率の何倍までの死亡率の加入申込者を引き受けるのか認可を受けています)。これを超える場合は、契約を見合わせ(謝絶)とします。加入申込者からすると契約申し込みを断られたことになります。

具体的には、保険の視点で重病、あるいは病気から回復直後で日が浅い場合などです。

②健康度を評価する情報が不足している

例えば、病気の可能性があるため検査中の場合や、申告していただいた情報が断片的などの場合です。主治医の診断書や精密検査結果あるいは、健康診断結果があれば加入できることもあります。

③予後を評価することができない

稀な疾病に罹っている方ですと、そもそも世の中のどこにも予後を評価するデータが無いため保険会社で健康度評価ができないことがあります。

④その他の事情

健康度の問題以外に、様々な理由で契約を断られることはあります。

告知書が理解できない、契約内容を充分理解していない、加入者として契約の継続に問題があると見込まれる場合、社会的に契約を引き受けることが妥当でないと判断される場合など多様です。

 

2)契約の条件とは

健康度に問題があると、通常の保険料では加入できませんが、条件を付加することによって契約を断らずに済む方法です。

具体的には

  • 死亡保険の保険料割増条件と保険金削減条件
  • 入院保険の部位不担保、疾病不担保

などの条件です。

 

死亡率が高いと評価されれば、割増保険料の提示をうけることになります。一方、病気や怪我の回復期であれば、保険金削減条件の提示を受けます。

保険金削減条件は、契約後一定期間内に死亡されると保険金の支払いが削減(減額)される条件です。つまり一定期間だけ死亡率が高いと判断されたわけです。多くは、大きな手術直後や外傷受傷直後などの場合です。

一方、入院保険では、一定の部位の入院、一定の病気による入院は免責とする不担保という条件が付与されます。

 

3)どのように評価して条件を設定するのか

健康度をチェックする方法を保険会社では選択手段と呼んでいます。医師による診査(診察と告知聴取)や健康診断書の提出あるいは、告知書の質問などです。

これらから得た情報を評価する(このプロセスを引受査定と呼びます)わけですが、保険医学(別の項で解説)的経験と統計的根拠に基づいた査定標準(基準)にしたがって行われます。消費者からすると残念なことですが、この評価基準は開示されません。トップシークレットになっています。開示すると、これを悪用することも考えられるからです。

 

消費者の健康度への認識と査定の結果の違いは、ここにあります。

 

引受査定の判断・・・・・保険医学的な科学的な判断、保険数理的な根拠などを背景に判断

消費者の認識・・・・・・自分の自覚(体調がよい悪い、よく活動できるか否か)、健康診断結果の説明、主治医の説明による自覚

 

それぞれの判断の差を見てみました。医師である主治医の説明と保険会社の判断が異なることもままあります。これが、臨床医学と保険医学の差です。少し例をあげて解説してみましょう。

<例1:PSAが高い、組織検査で異常なし>

よくあるケースですが、PSA(前立腺がんがあると高くなる)という血液検査の結果が高い男性の加入申込者です。

 

申込者:

PSAが高い(18.0)だと言われて組織検査(針生検)を受けたが、がんではなかった。3ヵ月後にまた病院へくるように言われたが、治療も何もないので当然保険加入できる健康度だと思っている。主治医からも生検結果が問題なくてよかったですねといわれた。

 

保険会社:

PSAはかなり高く1回の組織検査で異常が無くても今後前立腺がんが発見される確率はかなり高い。とても保険は引き受けられない。

 

という判断の差で契約申込者と保険会社の判断に大きく差のあるケースです。

 

<例2:高血圧で治療 血圧164/94>

 

申込者:

65歳男性だが何年も高血圧で治療してきているし、この年齢だったら多くの人が血圧で治療している。ずーっと血圧の値も安定していて主治医からは血圧のコントロールが良好と言われている。

契約に多少の条件は付くかもしれないが、何故保険料がそのように高くなるのか納得できない。

 

保険会社:

保険会社が蓄積しているデータを分析すると、この年齢の男性で健康な方(血圧治療をされていないし、正常な血圧値の方)と比較して死亡率は、高いと判断できる、終身保険だと月額保険料は***円高くする必要があるので、保険料割増徴収の条件を提示しよう。

 

このように、加入申込者と保険会社の間に判断のズレが生じています。消費者の方には納得ができないことかもしれませんが、このような判断プロセスで保険会社からは査定の結果の提示がなされるわけです。

 

<例3:早期胃がん手術直後>

主治医:

早期胃がんです。治療後5年生存率(粗生存率)は95%ですから、まず心配要りません。

医学の進歩で早期胃がんをわれわれ臨床医は克服したのです。(臨床医学的判断)

 

保険会社:

早期胃がんだが、治療後5年間で100人に5人も死亡する。胃がんの無い人は5年で100人で1以内の死亡の確率しかない。早期がんの治療をされた方は、早期胃がんの無い方の約5倍の死亡確率なので早期胃がん直後の加入申込者は、契約を見合わせしていただこう。(保険医学的判断)

 

このように、それぞれ判断している軸が異なります。保険医学の項で説明しますが、このような保険医学の判断は、臨床医学とは異なる診療科目というようにご理解ください。