がん保険の良否とは

最近、がん保険(がんの治療費や療養に関する費用の保障に特化した商品)を販売する会社が増えています。死亡保険や医療保険は競合が激しく、新たな商品のアイデアも乏しく開発しても思った程販売が伸びないため、がん保険の販売を躊躇っていた会社も仕方なく販売の開始をしたというのが実情でしょう。元々がんに関する保障は、三大疾病保障保険として「悪性新生物」「心筋梗塞」「脳卒中」に罹った(一定条件が必要です)場合に、死亡しなくても給付金が支払われる商品(死亡保険金も付加されていたので専門的には、第一分類の保険に区分して扱われていた)として提供されてきました。この保険は、日本生命から提供され業界統一商品として各社で販売することになり保険料も約款も全く同一で横並びの状況でした。
 一方、最近はがんに罹患する患者が増加し、がんは国民病として注目度も高く、がん保険を販売しやすい条件が揃ったこともあり、各社のがん保険販売の取り組みには拍車がかかってきています。しかし、過去販売してきた三大疾病保障保険と異なり、がん保険単独商品には特有の契約を管理するノウハウが必要になってきています。

 それでは、がん保険と従来の三大疾病保障保険を比較して見ましょう。

  がん保険   三大疾病保障保険のがん保障
 がん罹患で給付  給付有  給付有
 がんの療養に関する給付
(入院、手術等の保障)
 給付有  給付無し
 募集人の知識  がんの療養に関する広い知識が必要
(募集人の知識を補う形で、療養に必要な特約を商品化して募集人・消費者に提供されている)
必ずしも広い知識は必要ない 
 保険期間  多くは、給付が発生しても、その後も終身保障  支払いが発生すると契約が終了する。契約者のその後の療養のお世話は保障として不要
 契約を管理するノウハウ ノウハウは、より高度  ノウハウは、必ずしも高度ではない 


 以上の表にポイントをまとめてみました。このように比較すると、両者の違いがより明確になると思います。

 それでは、がん保険を選ぶ際の良否は、どのように判断すればよいでしょうか。
表を見ていただくと、一部ご理解いただけると思いますが、

・保障の範囲の広さ
・保険料の安さ(消費者にとって無駄な募集人手数料や事務経費が安いことを含む)
・募集人の説明のレベル
・分かりやすい給付内容

と言った一般的な商品の良否を判断するポイントは当然ですが、がんの療養に関して保障を提供している点で、募集人の説明のレベルがより重要でしょう。更に、がんになった時に適切に給付されるのか、療養期間も長期に渡ることも稀ではないため、複数回の給付を受けられる方もいらっしゃいます。これらの請求に適切に、また闘病されている方に誠実に対応してもらえる会社を選ぶことも重要です。逆に、このような対応ができるかどうかが、表の最下段に挙げた「契約を管理するノウハウ」の一部になります。
 改めて、ノウハウの部分を明示すると
①約款がしっかりしている(何が給付されるのか、明確で医学的に妥当な記載になっているか)
②支払い体制が充実している、請求に関する問い合わせ対応の充実している
③がんに関する募集人教育の充実している
④がんの療養に必要な保障をきちんと給付金や特約として販売している
⑤患者や家族への思いやりが感じられる、あるいは相談にのってもらえる
 しかし、このようなノウハウの情報は消費者にとって入手困難ですが、判断するためのポイントを少し解説しましょう。

上記の①~⑤について、それぞれに説明を以下に加えます。

①については、
少し専門的ですが悪性新生物の記載が医学的に正しいのか医療関係者に約款を見てもらうと分かるでしょう。同様に上皮内新生物(元々良性の腫瘍の一部に区分されていた腫瘍ですが、組織の表層の上皮部分に限局した腫瘍組織について、特別に上皮内新生物と分類されます。転移や浸潤がなく悪性新生物と性質が異なります)と上皮内癌の表記を見ていただくと上皮内新生物の表記ではなく、上皮内癌(良性新生物の一部だったのに以前は分類名に癌と表記されていました。過常診療が発生したり、患者の不安をあおるため問題が指摘され現在は上皮内新生物に改称されています。上皮内癌の保障を誇張して販売する会社は不実な会社と言えるでしょう)の表記が依然として約款に記載されている場合があります。販売する会社の知識不足が露見している部分と言えるでしょう。

②について、
各社の給付請求件数に対する支払審査に関係する社員数や、支払い漏れの率(件数ではなく率が重要)などは一部ディスクロジャー情報として公開されています。

③について、
がんやがんの療養に関する質問を募集人にしてみると実力が分かるでしょう。一番よいのが、悪性新生物と上皮内新生物の違いを説明してもらうのがよいでしょう。上皮内癌という用語を多用したり、悪性新生物と同じく上皮内新生物も同等の身体的、経済的負担が掛かるという説明をするかどうかは、最も実力を判断する上で簡単な視標です。

④について、
がん保険では、がんに罹患すると給付金が一時金で給付してもらえる特約が用意されていることが一般的です。しかし、がんで死亡した場合に支払われる給付金は、通常の死亡保険と同じ遺族保障として考えて給付金額の妥当性が判断されますが、罹患に関して給付される金額の妥当性は、がんの闘病、療養に関する必要保障金額となります。その金額の妥当性の根拠の説明が募集に際して必要になります。がんに罹患しただけでは、一般の疾病と同様な程度の給付金額があれば原則十分です。しかし、がんには特有の治療や療養が必要になるため、それぞれの療養にあった給付金が用意されているかが重要です。一時金としての診断給付では金額の妥当性を判断することはできません。たとえば一時金として100万円給付金があるがん保険では、胃の早期がんに関して考えると100万円は一般的には過剰な給付金額です。生命保険会社は、定額を給付するのが原則ですから、患者を個別に見れば給付金の過不足が生じるのは仕方がないですが、全く医学の素人である消費者に勝手な金額を提示して保険を販売するのではあるべき姿ではありません。商品を提供する保険会社が、必要な保障金額を特約という形で療養に必要な金額を提示するのがあるべき姿だと考えます。

⑤について、
患者に寄り添う会社であることは、がん保険に限らず病気の療養を保障するような商品を販売するならば、当然のあるべき姿です。しかし、このようなことは実際給付の際にしか感じ取ることはできないでしょう。勿論、がんの患者の相談ができるようなサービスを提供している会社もありますが、多くはセカンドオピニオンサービスの提供であり、そもそもの保険会社の社員の心持とは別です。それでは、簡単に確認できる方法を提示してみましょう。「がん保険の加入者ががんに罹ったけれど、家族や医師が患者にがんの告知をしていない場合には、どのような給付の対応をしてくれるのか」という質問を募集人や社員に問い合わせて見ましょう。実は、会社のスタンスは、このような対応の回答の丁寧さに大きく違いが現れるのです。これも言って見れば、契約管理のノウハウでしょう。

以上のとおりがん保険を管理する上でのノウハウの一部を解説させていただきました。がん保険の良否について考える際の参考にしてください。少なくとも、テレビCMのイメージとは無関係です。最後になりましたが、日本癌治療学会に社員の何名が参加したか、確認してみてもよいでしょう。がんの療養の情報は、この学会に集約されています。会社の基本姿勢を知る上で最重要情報でしょう。がん保険を販売する最低限の資格確認となることを付け加えておきます。