2020年度レポート

第10巻第2号の内容(RESEARCH REVIEW VOL10 NO2)

新型コロナ既往と保険引受け

現在、新型コロナの患者数が日本では増加していますが、医療関係者の努力によって死亡数は抑えられ、回復している既往者の数も増加しています。回復の定義は色々ですが、PCR検査が陽性ですが症状は軽症でその後の検査で陰性になった方や、退院された方々が含まれています。これらの回復された方は、現実の医療と向き合った経験から保険加入のニーズが高まるのか、保険会社からはこれらの方々から加入可否の問い合わせを受けているとの声が上がっています。
未知の疾病である新型コロナですが、保険会社はこれらの問い合わせに応える前に、引き受けの可否を判断する基準を準備しておかなければなりません。保険業界に蔓延する悪弊としては、科学的根拠もとづき基準を作成することよりも他社と横並びの基準にすることを優先する傾向があります。しかし、全ての会社にとって経験が無い新型コロナに対しては、判断基準を整備するために科学的根拠をきちんと把握しておく必要があります。今回のレポートでは、新型コロナの疾病のリスクを概観し、回復された方々への保険加入の可否を判断する科学的根拠の確認と基準作成のための考え方を解説しています。

2020年第10巻第2号 RR2020VOL10NO2.pdf

第10巻第1号の内容(RESEARCH REVIEW VOL10 NO1)

白内障手術の先進医療適用除外と選定療養制度

新しい医療行為の保険適用を評価する仕組みとして先進医療や患者申出療養制度が存在します。これらは、保険診療と医療行為の技術料が自費負担となる公的に管理された混合診療になり、保険外併用療養費制度に含まれます。保険外併用療養費制度の全体をまとめると、以下のとおりに区分されています。

  1. ① 有効性、安全性が確認された療養:保険診療
  2. ② 有効性、安全性が確認されない療養または確認する必要のない療養で国が管理するもの:保険外併用療養費制度
    1. (ア) 保険導入の評価を行うもの(評価療養、患者申出療養)
    2. (イ) 保険導入の評価を行わないもの(選定療養)

これらの中で、新たな医療行為の制度適用には関心が集まりますが、差額ベッド代の費用の徴収の根拠となっている選定療養制度が解説されることは、あまりありませんでした。ところが、今回多くの患者が受けている白内障治療の1種である多焦点レンズを使用した水晶体再建が、保険適用が受けられないまま先進医療から除外されることが決まりました。これでは、同治療行為は自由診療でしか行えません。本報告執筆中に、同治療行為が選定療養行為として、公的に管理された混合診療の対象として継続できるように関連学会から申請されています。万一、このような医療行為が選定療養に認められると、今後保険導入が不適であると評価された医療が、選定療養として適用が拡大される影響があるのです。また、今回対象となった多焦点レンズを使用した水晶体再建は、先進医療給付金も、一部の商品の手術給付金にも非該当となり、給付金が支払われない事態が発生してしまいます。したがって、保険業界のみならず、国民もその動向について注視しなければなりません。懸念事項として、混合診療が歯止めなく拡大することや、選定療養の認定基準や選定プロセスが曖昧な点があることです。以上について簡単ですが、本研究報告で解説いたしました。

2020年第10巻第1号 RR2020VOL10NO1.pdf